AIと仕事
現在の社会ではどうなっているか
ここからは事実の話です。出典はすべて明示します。公表時点の数字で、推計値と実績値はそのつど区別します。
導入は、予想より早く進んでいる
2026年4月の東京商工リサーチ調査(有効回答6,327社)では、生成AIを「会社として活用を推進」していると答えた企業は20.3%(1,289社)。「部門によっては活用を推進している」まで含めて組織的に進める:大企業は59.1%、中小企業は32.3%。「方針は決めていない」は37.5%で、前回(2025年8月)の50.9%から13.4ポイント下がっています。(出典1)
個人ベースで見た利用率の数字が二つあります。どちらも正しい数字です。
- パーソル総合研究所「生成AIとはたらき方に関する実態調査」(2026年2月3日公表、2025年10月調査):全国の就業者における業務利用での生成AI利用率は32.4%、業務利用人口は約1,840万人。週4日以上使う「ヘビーユーザー」は11.7%にとどまる。(出典2)
- Adecco Group Japan(2025年12月23日公表、20〜59歳の就業者1,010人):65.1%が業務で活用していると回答。「業務効率と質がともに向上した」が66.7%。(出典3)
この二つは母数が違います。パーソルは就業者全体の推計、Adeccoは20〜59歳に限定した抽出。定義も対象も違っています。この二つの数字を並べて「利用は65%に達した」とは書けません。大事なのは、数値の揺れそのものが、まだ厳しいという事実を示している点です。制度設計に使うなら、どの定義の数字を使うかを明示する必要があります。
効果はある。ただ、効いている人に差がある
パーソルの同調査で示された数字がひとつ。「生成AIを活用したタスクの所要時間は平均16.7%(週26.4分)短縮された」。
一方、実際に時間を短縮できているのは利用者の4人に1人。そして「日常的に使いこなしている層は1割程度」。
つまり、導入は進んでいるけれど、時間短縮の程度は人によって大きくばらついています。利用の中心は「週1〜3日」と「月数日以下」の層で、週4日以上使う人は1割強にとどまります。「使い始めたけれど、変化は想像ほど大きくない」というのが実情です。
もう一つ、地域差も明確です。東京都の利用率41.4%、福井県16.5%、新潟県19.6%。2倍以上の差があります。業種別では情報通信業61.3%、職種別ではIT・開発職64.5%と突出しています。(出典2)
学べる場所がある人と、ない人の差が、そのまま利用率の差になっています。
ILOの示している影響の輪郭
国際労働機関(ILO)は2025年5月、生成AIへの曝露度を2023年調査から精密化した指標を公表しました。29,753タスクを対象にした分析です。
- 世界の労働者の4分の1(24%)が、いずれかの曝露度水準に該当する職業にいる
- 最も高い曝露度水準に該当するのは世界の雇用の3.3%
- 男女差が大きい。最も高い曝露度水準で女性4.7%、男性2.4%。高收入国では女性9.6%、男性3.5%
- 所得水準による差も大きい。曝露がある雇用は低所得国で11%、高所得国で34%
- 事務職が引き続き最も曝露度が高い。最も高い水準に分類された13の職業の多くは事務職
出典:ILO「Generative AI and Jobs: A Refined Global Index of Occupational Exposure」(2025年5月20日)
https://www.ilo.org/publications/generative-ai-and-jobs-refined-global-index-occupational-exposure
そしてこの調査が言っていることの核心は、曝露の数字ではなく結論のほうにあります。「多くの職業は人間の入力を要するタスクで構成されているため、生成AIが最も想定される影響は、雇用そのものの消滅ではなく職務の変革である」と明記されている。
「4分の1」は「4分の1が職を失う」という意味ではない。この一文を飛ばした報道も、これを前提にした制度もあります。
なおこの調査は、理論上の可能性と実際の利用実績を分けて評価しています。2023年調査では議事録作成や予定調整のタスクがスコア0.9に達していましたが、2025年調査ではその評価を下げています。2年間の実地利用を経て、完全な自動化は困難だと認めた反映です。理論上の可能性と実際に回っているものの間には差があります。この差を無視した制度設計は、空転します。
日本の需要推計が示しているもの
文部科学省・経済産業省の「2040年の就業構造推計(改訂版)」は、2040年に十分な国内投資や産業構造転換が実現する場合の推計です。
前提に立つ数字は、就業者数が約6,700万人(2022年)から約6,300万人になる、というものです。ただし「AI・ロボット等の利活用やリスキリング等により労働需要が効率化され、全体で大きな不足は生じない」と明記されています。
总合ではなく、ミスマッチが示されている。
- 余剰:事務職 約440万人、大卒・院卒の文系人材 約80万人
- 不足:AI・ロボット等利活用人材 約340万人を含む専門職、現場人材 約260万人、大卒・院卒の理系人材 約120万人
出典:文部科学省・経済産業省「2040年の就業構造推計(改訂版)」
https://www.mext.go.jp/content/20260203-mext-kanseisk01-000047142_6.pdf
全体の就業者数が減っても、内側だけで需給が分離しています。雇用が足りなくなるのではなく、足りないものと余るものが同時に存在する。その間をどうつなぐかが制度の問題になります。
「2040年」という数字の扱い方には注意が必要です。これは予測ではなく、仮定を置いた試算です。国内投資の規模や産業構造の置き方によって大きく変わります。数字の係囲と、その前提を必ずセットで示しないと、推計値が確定値として流通します。
いま動いていること:若年層の入口
影響の輪郭を最もはっきり示しているのが、若年層の話です。
日本総合研究所は2026年4月、『生成AIと日本の雇用――若年層の技能形成をどう確保するか』(JRIレビューVol.4 No.131、福田直之)を公表しています。ここで紹介されている先行研究の骨子は次の3つです。(出典4)
- Brynjolfsson, et al.[2025]:米ADPの給与記録2,500万人超分を用いた推計。生成AIの影響を受けやすい職種(ソフトウェア開発、カスタマーサービス等)では、22〜25歳の雇用者数が2022年末から2025年7月までに約6%減少。企業ごとの景気ショックを除去しても、影響を受けやすい職種では受けにくい職種に比べて相対的に12〜13%低い雇用。同じ職種で30歳以上の熟練層は逆に6〜9%増加
- Hosseini & Lichtinger[2025]:履歴書・求人データ約6,200万件、285,000社。生成AI導入企業では若年層の雇用が非導入企業と比べて急速に悪化し、6四半期後には約9%の相対的減少。一方、熟練層の雇用は導入企業が上回る伸びを続けている。この低下は解雇ではなく、採用の鈍化(「期待先行の代替」)として生じている
- Atkinson & Yamco[2026]:Current Population Surveyで同じ傾向を確認。若年層の雇用シェア低下の主因は解雇の増加ではなく、働いていなかった人が失業を経ずに就職する新規の流入が細ったこと
この3つが示しているのは、米国で起きているのは雇用の消滅ではなく、採用の入口の縮小だということです。枠内の人がいなくなったのではなく、入る側の絞り込みが強くなった。失業率が上がったのではなく、就職までの入口が狭くなった。
そして日本総研は、この先行研究を日本の状況に当てはめたとき結論が変わるとしています。少子高齢化による人手不足、メンバーシップ型雇用、新卒一括採用という日本の雇用慣行が尻止めになっているため、米国のような若年層の失業急増は起きにくい。
問題は、雇用の数ではありません。日本総研はこう書いています。
「就職はできたけれど、仕事を学べなかった世代」が生まれかねない。
文書の下書き、データの整理、定型対応。これらはこれまで、社会に出たばかりの若年層が仕事のOJTの基本を覚えるエントリー業務でした。生成AIがこの出発点を担うと、育成の仕組みが内側から崩れます。そして問題が顕在化するのは5〜10年後、導入期に入社した世代が事業の判断を担う管理職になる頃です。
> 就職氷河期は「雇用の機会そのもの」が失われた時代だった。次に来るのは「就職はできたけれど、技能が身につかなかった」という雇用の質の問題。
短期で見ると、導入直後のほうが良い数字が並びます。工数削減と成果物の品質が向上しているからです。でもメンバーシップ型の強みが内部から失われていく。これが数年単位で見ないと判断できない部分で、今すぐには見えません。
見えにくい負担は何か
数字に出ない負担を、五つに分けておきます。
一つ目:「あった」こと自体の費用
AIが使える世界では、あること自体に費用が生まれます。何かを自分でやるたびに、AIに任せたほうが速かったという比較が始まります。この比較は一生き続きます。
結果として、写法そのものに差が出ます。同じ文書を書くという仕事でも、AIの出力を受け取って組み立てる人と、業務の全体像を自分で持ったまま書く人では、働き方が違います。この差は収入差として数字に入れられません。
二つ目:相談にかかる費用
2025年12月のAdecco調査で、生成AI導入のもっとも大きな壁を尋ねたとき、第1位だったのは「活用する側のスキル不足・教育不足」(29.1%)でした。2位はセキュリティ面(28.3%)、3位は品質のばらつき(26.1%)。そして「2026年の活用のために今後必要だと思うこと」の第1位は「研修・トレーニング」(25.0%)でした。(出典3)
研究とトレーニングが必要だと感じています。では、誰がものを、誰がものがするのか。
相談を举起するのは現場の人です。情報システム部ではありません。現場から出た質問に対して、答えられる人が社内にいない。質問が上一层に上がっていく間に、現場の時間は失われます。
その相談にかかる時間は、勤務中の場合は減収そのものです。夜間や休日なら、家庭の時間を削ります。相談を自立的に受け解决问题的ていない状態とは人为本。この前提を置かない制度設計は、,终究 理窟だけになります。
三つ目:権力のない権力者への対応費用
公式な権限はないのに、非公式な力を持つ人がいます。働くとは何かで扱った問題ですが、AIはこの力学を引き続けることがある。
「AIを使う側」と「AIに任される側」を、非公式の序列で管理する人が出てきます。序列の基準は公式な評価にはありません。必要なのは、その序列で誰が上に行けたか、誰が下に残ったかを手書きで追えるか。そして、序列の決定が組織の外に説明されるかどうかです。
四つ目:選べる働き方が減る費用
AI嬏入の前に、他に行ける場所がある人は、影響を見積もります。だから、第一次就職の入口にまだ人には、AI嬏入の影響がそのまま対出する。
行き先が選べるかどうかが本人の所得と家庭の状況に左右されるなら、AIによる負荷と所得の低さは、別々の問題ではなくなります。どちらの層に最も严重かに、横たわっているか。这个 is 原則1の噛み合わせです。
五つ目:学び直しの、隠れた費用
「学び直し」を政策文書の言葉にすると、費用は少なくとも五つに分かれます。
- 直接費用:訓練経費(教材、講師、ツール、受講料)
- 用人单位の負担:訓練時間の分、誰かが穴を埋める
- 本人の機会費用:訓練中は本来できる収入が入らない
- 生活費用:住居、食費、子育て、医療。訓練のあいだ必要
- 失敗の費用:学べなかった場合。時間だけでなく、戻せない自信も減る
後ろの二つは、既存の制度には含まれていません。
制度設計に数字を置いてみます。50代が事務職から他分野へ転換する場合として(以下はすべて仮定)。
- 訓練期間 6か月
- 訓練経費(外部講座の場合)60万円、うち75%補助で自己負担15万円
- 訓練期間中の生活費 月15万円×6か月=90万円
- 訓練期間中の収入 0円
- 訓練期間後のつなぎ 3か月×月20万円=60万円
自己負担の合計は165万円、期間は約1年。existing リスキリング支援制度は、この穴を埋めることができません。訓練費の補助はありますが、生活費とつなぎの保障がないからです。